甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
バーバラが出ていくとすぐに、ユアンも自分も支度をしてくるから、
と言って部屋をでていき、フィーネはひとり部屋の中に取り残された。
一体全体なんで自分はこんな格好をさせられているんだろう。
ユアンの足を引っ張るな、とはどういうことだろう。
まとまらない考えをどうにかしたくて、フィーネは窓際に近づくと
窓の外を眺めた。
庭の木の葉はもう薄く黄色に色付きはじめ、ぬけるような青い空が
綿雲を浮かべている。
ここに来たときは夏の終わりだったのに、いつの間にか葉の色が変わり
始めていた。
こうしてまた、貴族らしく装っていることがなんだか不思議に思え、
久しぶりのコルセットの締めつけに、ふーっと息をはいたとき、
がちゃりと部屋の戸があく音がした。
部屋に入ってきたのは貴族の身なりをした男性だった。
上質のシルバーグレイのフロックコートに、濃いグリーンのタイ。
手にはステッキと、トップハットを持っている。
短いブラウンの髪に、顎に薄く髭をはやしたその男性は、琥珀色の瞳
を細め、フィーネに笑いかけた。
「やあ、待たせたね」
「あ、あなた......」
親しげに近づいてきた男性は、フィーネの腕をとると、自分の腕に添わせる。
「さあ、でかけよう」
「ユアン......」
呆然としながらそう呟いたフィーネに笑いかけ、ユアンの声でその男性は言う。
「時間がない、詳しいことは馬車の中で」