甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
ユアンとフィーネ、いや、ミルズ男爵夫妻を出迎えたゴードン氏
は、でっぷりと太った中年の男だった。
薄くなりかけた灰色の髪を整髪料でべっとりと撫でつけ、えらく顎が
しゃくっている。
オフィスの客間に案内されソファに座ると、ゴードン氏は世間話をまじえ
ながら、早速ミルズ男爵の素性を探りはじめ、そんなゴードンに、ユアンは
さきほどフィーネに大まかに語った身分や事情を、すらすらと淀みなく答えていく。
多少つっこんだ質問をされても、顔色ひとつ変えない。
話のつじつまはきちんと合っていて、おかしなところはひとつもない。
フィーネは呆気にとられながらも、感心していた。
頭の回転が速くなければ、こうすらすらと嘘はつけないだろう。
まるで、本当にミルズ男爵という人間がここにいるかのように
思えてくる。
髪の色や長さ、瞳の色まで、いつものユアンとは違うから尚更だ。
そういえば、どうやって姿を変えたのだろう、あんなに短時間のうちに......。
考え込んでいたフィーネは
「サラ」
と呼びかけられて、はっとした。
でも、ミルズ男爵夫人としての名を呼ばれたのだとは、咄嗟に
気づけなくて、妙な間があく。
「どうしたんだい? ぼーっとして」
ユアン、いやミルズ男爵に心配そうに顔を覗きこまれ、目の前のゴードン氏
も怪訝そうな顔をしているのに気づき、フィーネは慌てた。
ひやりとしたものが背中を伝う。
「なんでもありません.....わ」
ぎこちなくそう口にすると、柔らかくフィーネに笑いかけていたミルズ男爵は
ゴードン氏のほうへ向きなおり、照れたように頭をかいた。