甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
「実はまだ結婚して日が浅いんです。それに僕は海外にいたから
結婚前もサラとはほとんど顔を合わせていなくて。
妻が僕の隣にいることに慣れなくてぎこちないのは、しょうがない
と思ってはいるんですが」
男爵の告白めいた言い訳に、ゴードン氏はその日はじめて、本当の笑みを
見せた。
「これは、これは。男爵は美丈夫ですからな、夫人も照れて
いらっしゃるんでしょう」
「今日もレースの帽子で顔を隠していますが、人見知りも激しい
ところがありまして。それに、こうしてちょっと手を握っただけで......」
そう言いながら、フィーネが膝の上に置いていた手を、ミルズ男爵はやさしく
握る。
「恥ずかしがるんです」
そっと、自分の体温を分け与えるような触れ方にフィーネは本当に
どきっとした。
ユアンに乱暴に手を握られ引っ張られたことはあっても、こんなにふうに
やさしく触れられたのは初めてだったから。
その上、ユアン、いやミルズ男爵は、熱のこもった瞳でフィーネをじっと
見つめる。
フィーネが堪らず俯くと、
「はっ、はっ、はっ、いやぁ まったく初々しい。羨ましいですな」
とゴードン氏が身体を揺すりながら、おおげさな笑い声をたてた。
「妻に、夫としてはやく認めてもらい、安心して頼られたいんです。
だから、この本国での事業は、絶対に成功させたい。
どうぞ、前向きにご検討をお願いします」
まだフィーネの手を握ったまま、ミルズ男爵はゴードン氏に頭をさげた。