甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
そんなふうに考えながらユアンを見ていたフィーネは、ユアンがミルズ男爵
になるつもりで、貴族の装いを整えていることに気がついた。
「ゴードン氏に逢いにいくの? だったら私も!......」
勢い込んでそう言った声をユアンの声が止める。
「必要ない」
きっぱりとした言い方だった。
タイを結ぶ手を止めず、フィーネを見ようともせず、ユアンは言葉を
続ける。
「ミルズ男爵が妻にのぼせ上がった扱いやすい男だという印象は
残せたはずだ。
あとは、もう僕一人でもやれる。
嫌がる君に無理強いするつもりはないよ」
怒っているようには聞こえないけれど、淡々と告げられた言葉は
フィーネの気持ちを掻き乱す。
もう嘘の男爵夫人にならなくてもすむのなら、それに越したことはないはず
なのに、フィーネの口から転がりでた言葉は、当のフィーネさえびっくり
するものだった。
「嫌じゃないわ、私、ミルズ夫人になることは嫌じゃない」