夢みるHappy marriage
「あ、あの」
声をかけたところで、彼女の消え入りそうな声にかき消された。
「ごめんなさい、先に帰ります」
……私も誰かに慰められるなんて勘弁、そう思ってその場をあとにしようとする彼女を引き留めなかった。
なのに、その今にも崩れ落ちそうな彼女の体を、誰かが制した。
「なんだよ、奥森もう帰んの?せっかく、俺が帰ってきたのに」
どこかで聞いたことがある馴染みのある声。
そしてどことない既視感。
いやいや違う。彼はこんなスマートじゃなかったし、こんな陽気な口調で話したりもしない。
「何?また凌眞にいじめられたの?ったく、しょうがねぇな」
びっくりして見上げる奥森さんの顔を見て、事情を察したかのように言う。
「か、川村さん、どうしてここに?」
川村、と言う名前にびっくりして思わず大きな声を出す。
「正吾っ?」
奥森さんの背後から声をかけると、満面の笑みで近づいてきた。
「絢奈?良かった、会えて!」
出会い頭、そう言っていきなりハグされる。昔ニューヨークに行くって言っていたけど、だいぶアメリカンナイズされた挨拶。
留学って、年月って、こうも人を180度変えてしまうものなんだろうか。
奥森さんの方はというと、ことの始終を見ていた、彫刻美女と一緒に来ていた男の子に外へ連れ出されていた。
そんな去り際の二人の視線がすごく気にかかった。
……まるで正吾を嫌悪するようなそんな視線だったから。
「久しぶり、ずっと会いたかったんだよ。絢奈に会うために、この日に間に合うようにあっちの仕事早く終わらせてきたんだ」
「ず、随分、変わっちゃったから、最初誰だか分からなかったよ。性格も何もかも、まるで別人みたい」
「人生は下剋上だろう?同志だろうが」
そうだ、彼との関係を元カレとだけでは表せない。
彼とはコンプレックスの塊同士で、まさに同志だったのだ。
私のデブス時代を知っている数少ない人間で、そしてそんな私を好いて応援してくれた。
だけど、彼も付き合っていた当時とはまるで違う。前はもっと太って、洋服にもまるで興味がなかった。今みたいにメガネはかけていたけれどこんな洒落たものじゃなかったし、スーツだっていつもよれよれだった。
性格も根暗でパソコンとゲームが友達みたいな感じで、女の子と付き合うのも私が初めてだった位。
それが今ではこんな細身のスーツを着こなし、爽やかな笑顔で軽快に話す。
昔とは雲泥の差だ。