夢みるHappy marriage
「今回開店に向けてお手伝いさせて頂いた榊原です。外部の人間のくせに色々うるさく注文をつけてしまいましたが、今日無事にこの日を迎えられて本当に良かったと思っています。皆さんの協力のおかげで、素晴らしいお店になったと思います」
彼を感慨深く見つめる社員もいる中、私もやっと今日で終わりなのかと思うとなんだか寂しくなってきた。
そんな中、ふと榊原さんと目が合う。そして、一つ咳払いをすると、
「……えぇ、イトウフーズさんの方で私と、とある女性の噂が流れているようですが……」
――っ!!?
……あぁやばい、くらくらしてきた、このまま卒倒しそう。
もう信じられない、こんなところでいきなり何言い出すの……っ!?
噂を知っている人から遠慮がちに私にちらっちらっと視線が集まって、思わず身を縮こませる。
あぁ、このまま消えてしまいたい。
「彼女に言い寄ったのは私の方です。現在一緒に住んで良いお付き合いをさせて頂いています」
……は?
はぁっ!?
「些細なことですが、うちの社員がこちらの会社で出されたお茶に口をつけなかったのを見て、次から違う飲み物を出したり、毎回訪れる度に焚いているアロマの香りも良かった。自然に気遣いのできる人だと思い、ぜひうちの秘書に雇いたい位に思っていたのですが、それと同時に一人の女性としても強く惹かれました」
い、一体、この人は何を言ってるんだろうか……?
その後も、何か話していたが全く耳には入ってこず、混乱した私の頭はついに考えることを放棄しフリーズ状態に。
スピーチの後、社内の色んな人に話しかけられたが、笑って誤魔化しその場を切り抜けた。
「……あいつと付き合ってるの?」
正吾にそう聞かれ、私は声を荒げて否定した。
「まさか!」
「じゃ、なんであんなこと言ってるの?」
「分かんない。ついこの間、自分は恋愛できないとか、人と付き合えないとか言ってたばっかなのに。本当あの人の考えてること、全然分かんない……っ」
「……ここいづらいだろ、外出るか?」
こくんと頷く、今は正吾だけが味方のように思えた。