夢みるHappy marriage
正吾に手を取られこっそり店から出ると、後ろから声をかけられる。
よく聞き馴染みのある低い声に、心臓が縮こまった。
「さっきの俺の話聞いてなかったのか?」
「聞いてたよ、でも絢奈は付き合ってないって言ってるけど?」
正吾の背後に隠れると、大丈夫と言うように手をぎゅっと握られた。
「お前に関係ないだろ」
「こんな辛そうな顔してるのにほっとけないだろ」
「……絢奈、こっちに来い」
「……っ」
怒気のこもった声で凄むように言われるが、足が地面に張り付いてしまったかのように正吾の背後から出て行けない。
ちらっと榊原さんを見ると、案の定怒ったような目で私を見つめていた。
「絢奈」
名前を呼ばれるも首を振って抵抗する。
「いやだ、もう何考えてんだか本当分かんない……っ」
その視線から今すぐ逃れたくて、正吾に握られた手を早く行こうと急かすように引っ張った。そんな私の様子を見て、分かりやすい位更に苛立つ榊原さん。
「雇い主が誰か忘れたか」
「なんだよ雇い主って」
そんな榊原さんの言い方にイラっとしたのか、正吾の口調も強くなる。
「こいつには俺の身の回りの世話をさせてる」
私の方を見ながら正吾に説明する。
このまま人には言えないやましい関係であることも、暴露されてしまうんじゃないかと気が気じゃない私は、祈るような目で彼を見つめた。
「そんな顔してどうした?これ以上言われると困るか?」
「これ以上って?」
そう聞く正吾に、私は彼に切々と懇願する。
「お願い、言わないで……っ」
「契約してるんだよ、体の関係も含めて」
驚いたように正吾に見られ、不意に手を離される。私も失意にかられ、彼に反抗する気力もなくなった。
きっとこれが狙いだったんだろうけど。
宙に浮いた手をすかさず榊原さんに取られ、ぐいっと引き寄せられる。
そのまま強引に手を引かれ、その場から連れ去られた。
正吾にせっかく久しぶりに会えたのに、こんなことを知られてしまっては絶対軽蔑された。
「……最低っ」
吐き捨てるようにそう言うが相手からの返事はない。
どうかしてる、この関係を誰かに言うなんて。しかも正吾は一緒に働いている仲間じゃないの?
捕まった片方の手とは逆の手で自分の涙を拭いながら、覚束ない足で彼の後ろを歩く。
結局、大通りで捕まえたタクシーであの家へ連れ帰されてしまった。