夢みるHappy marriage


「桜井さん、ちょっと今いいかな」

「はい、なんですか?」

良くねぇよ、と心の中で毒づきながら笑顔で応える。

「実は折り入って頼みたい事があってね」

「私にできることであれば」

いやいや、残業になるような面倒ごとだけは御免だと、どう理由を付けて退社しようか考え始めた。

「あのね、今度六本木に店舗進出するじゃない?それで開店までコンサルタントを利用していくことになったんだけど」

「へぇー」

コンサルという言葉に人一倍敏感になっている私。思わず笑顔が引きつってしまう。
しかし、派遣の私にはそんな話全く関係ナッシング。まるで他人ごとのように適当に聞いた。

「そこでね、あちらさんから、うちから一人バディを組んで欲しいって言われててね。それを桜井さんにお願いできないかなって。まぁ橋渡し役みたいな感じで、どうかな?」

ひぇー、めんどくさどー。絶対定時に上がれなくなるじゃん。しかもそれ派遣の私がやることじゃなくない?

「いえ、私にそんな重要な役目は……。勤まるかどうか不安です」

眉をひそめながら、困ったように言う。中川さんは優しいから無理強いはしないはず。

「そっか困ったな。それがさ、相手の方からの指名なんだよね。是非、桜井さんにって。なんだか知り合いみたいだけど、榊原さんって知ってる?」

「えっ?」

「英語ができるスタッフが良いということでね。桜井さんにって。もう、英語が話せるなんて初耳だよ、なんで言ってくれなかったの」

「いや、全然話せるって程のもんじゃないんで」


……さいあく

二度と聞きたくなかった名前。

思わずあからさまに顔がひきつる。私の苦々しい表情に中川さんも少し驚いた様子。
中川さんには本当に申し訳ないが、そいつとは金輪際関わりたくない。適当に理由をつけて、丁重にお断りさせてもらい逃げるように退社する。

廊下を足早に歩き、更衣室へ向かうべくエレベーターへ。下のボタンを連打して待つ。

……最悪だ、しかもバディに私を指名?一体、何の魂胆があって?









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