夢みるHappy marriage
これも人心掌握術というものか。
私がその気になるポイントをよく分かってらっしゃる。
今までの嫌がりようから一転、ころりと態度を変えると、まるでちょろいもんだと鼻で笑われた。
「じゃ、早速お店に行こうか」
「ちょっと待っててください、お店の鍵借りてくるので」
そう言われて、仕方なくオフィスに戻って店の鍵を借り、そいつと共に出店準備中の店へと向かうことに。
半ば強引なやり口に、流されるように従っているけど本当にこれで良かったのか。
「うちの会社の女子もなかなか気合入ってるけど、お前も相当なもんだな」
「えぇ、そこら辺の普通に綺麗な女の子と一緒にしないでください。皆が10綺麗になる努力をしていたら、私はその10倍は頑張ってますから」
「へぇー」
まるで興味のない返事をされて、ムっとして更に続けた。
「じゃないとね、すぐ太って顔に肉つくし、肌荒れしやすくて吹き出物もできやすいし、大変なんですから。髪の毛だって剛毛のくせっ毛で、本当梅雨の時期とか言うこと聞かないし」
グチグチ自分のコンプレックスをスピーカーのように垂れ流しにしていると、隣で歩きながら私の方を観察するように見てきた。
「……なんですか?」
不躾な居心地の悪い視線に、思わず声が荒くなる。
「そこまで手入れしなくたって、ちょっと隙があった方がいいもんだけどな。そうそう、こういうの」
そう言って何か見つけたかのように、私の髪を耳にかき上げられる。いきなり何をされるのかとドキドキしていると、笑いながら私のこめかみ部分を指を差してこう言った。
「ニキビとかさ」
「……っ!」
そう言って悪戯っぽく笑うその人の手を振り払った。一瞬でもドキドキした自分が馬鹿だった。そんなことを話ながら、会社から歩いて15分程の六本木一丁目駅からほど遠くない場所にお店はあった。お店の前まで来て、何やら看板を眺めて難しい顔をしている社長様。
仕事モードに入ったようで、私はただその様子を見ていた。
お店に入ると、隅から隅までチェックが入る。
「グラスの種類これだけ?フルートないの?何で乾杯する気?」
「フルボディもないとか、これだけコストかけて良い赤仕入れてるのに何考えてんの」
「それと内観なんとかなんない?センスなさ過ぎ。この照明暗くできたりする?ターゲット層分かってないだろ、ここ新宿や渋谷じゃないんだからさ。チェーン店だからって同じことしててもしょうがないだろ」
一体誰に向かって言っているのか、独り言のようにつらつら文句を言う社長様。
「おい聞いてるのか?」
「……ず、随分好き勝手言うからびっくりしちゃって」
「なんと言われようがこっちはこれが仕事だ。成功させたかったら言うことを聞け」
言うことを聞け?は?何この超絶俺様?
耳を疑うようなセリフに思わず閉口してしまう。