夢みるHappy marriage
私も気になり社長様へ視線を向けた。
だけどその返答を遮るように、そこでまたお店の扉が開く。雨が降ってきていたようで、会社の白坂千聡ことちーちゃんがわざわざ私と社長様の分の傘を持ってきてくれたのだ。彼女は私の4つ年下の23才、今年入社したばかりの新人さん。黒髪のおかっぱ頭に、丸い眼鏡をかけている。
「あら、可愛い子きた」
「ひ……っ」
いきなり副社長に絡まれ、短く悲鳴を上げるちーちゃん。今まで関わったことのないような人種に、思わず後ずさっている。
「辞めろって、悲鳴あげられてんじゃん」
「あ、あの、傘を……」
そう言って社長様に傘を渡すと、見たことのないような笑顔でそれを受け取った。
「ありがとう、車で来てるから助かるよ」
「い、いえ」
そんな社長様に照れるちーちゃん。私はというとなんとも胸糞悪い。
だって、さっきまでの苦虫を潰したような顔はどうした?この腹黒め。
私は、顔をしかめて奴を睨みつけた。
「てゆうか、会社まで送ってくよ。すぐ近くに車停めてるから」
「そうだな」
「車持ってくるからちょっと待ってて」
そう言ってポケットから車のキーを取り出し、ちーちゃんから傘を借りて颯爽と雨の降る外へと出て行った。
3人になった店内。
社長様がちーちゃんの方へ向くと、あからさまに体をビクつかせた。
無理もないよね、私も本性知らなかったら未だに緊張してたと思う。
「本当は明日改めて挨拶に伺おうと思っていたんですけど、コンサルタントの榊原と言います。よろしくお願いします」
そう言って丁寧に名刺をちーちゃんに手渡す。
「はぁ、榊原慧人さん、社長……」
「ちなみに、さっきのは副社長の片桐と言います」
「はぁ、副社長……」
呆けたように同じリアクションを繰り返すちーちゃんに思わず笑いそうになってしまう。
二人の様子を見ていると、それに気づいた社長様が私にも聞いてきた。
「何?お前も欲しいの?」
「いらんわ」
そんな荒い口調の私にびっくりしたのか、メガネの奥の目をまん丸にして驚くちーちゃん。
「え?二人はお知り合いなんですか?」
「いや、全然」
と、その問いに二人揃って答える。あまりにも息が合ってしまい、心の中で舌打ちした。
「?」
頭の上で?マークを浮かべるちーちゃんをよそに、店の前で一台の黒い車が止まった。
「あ、来たっぽいな」
店を出ると、はい、期待を裏切らない黒のBMきましたー。
まぁ、都内、特にここら辺では珍しくない車種だけど。
内装金かけすぎじゃない?めちゃくちゃオプション付けてるよね。
一体いくら上乗せされてるんだろう。考え出すと恐ろしくなってくる。