夢みるHappy marriage
そして店のすぐ前に車をつけてくれた片桐さんが、車窓を開けて顔を出した。
「どうぞー」
そう言われるも、触れることにさえ怖気づくちーちゃん。
そんな様子に榊原さんがドアを開けてくれた。
すると、いきなりちーちゃんが靴を脱ぎだしたため慌てて車の持ち主が止めに入った。
「えっ、なんで靴脱ぐの?」
榊原さんはというと、声を出さないように口元に手を当てているが完全に肩が笑っている。
「い、いや、だって車汚れちゃう……っ」
「いやいや、そんなことしたら君の足が汚れちゃうでしょ」
「でも」
「こんな車のマットより、君の足の方が大事だよ」
優しいというか少々キザというか、そんな言葉にも素直に顔を赤くしたちーちゃんは申し訳なさそうに車の中へ入って行った。
「すいません、失礼します」
「お願いします」
私も続けて車へ入る。
助手席に乗った榊原さんが、うちの会社の場所を教えるとすぐに走り出した。
しかし、この4人に共通する話題がある訳でもなくただただ無言の車内。
するとその沈黙を破るように、ちーちゃんがか細い声で尋ねた。
「あ、あの、この車、おいくら位するものなんですか?」
「うーん、都内の一人暮らし用のマンション一室買える位?でもこいつの方が良い車乗ってるよ」
……ははぁ、天下の社長様ですものね。
「はぁ……、なんだか想像つきません。きっともう私の人生でこんな車に乗ることはないと思います」
しみじみ大げさなことを言うちーちゃんに、思わず吹き出す私達。それになんで笑うのとでも言うような顔のちーちゃん。
「可愛いなぁー、家に連れて帰ってペットにしたい。千聡ちゃんって、まずうちにはいないタイプだよね。あのくっそ生意気な奥森に会わせてやりたいわ」
待って、私だって若干靴浮かせてるわ。さっきから、足プルプルしてるし空気椅子並に頑張ってるわ。
「ペットっていい加減にしろよ、お前」