夢みるHappy marriage
会社の前でおろしてもらうと、帰り際、榊原さんから声をかけられる。
「今日話したこと、明日俺が行く前にメンバーで検討しといて。明日14時位に行くつもりでいるから」
「あ、はい、分かりました」
思わずそう返答してしまったが、私は本当にこのプロジェクトに本格的に関わっていくつもりなのだろうか……?
なんなんだろう、あの社長様の強引さは。私は部署内でバディなんてできる立ち位置にいないのに。
早速、ちーちゃんとオフィスに戻り、社長様の言伝をプロジェクトメンバーに伝える。
「それでなんて言ったの?」
早速、野村和明、通称クズアキが私に噛みついてきた。私はこいつが嫌いだ、そしてこいつも私が嫌いだ。当初からそれは、お互い肌で感じていた。こいつは私の二つ年上で、そしてなんとあのちーちゃんの彼氏だって言うんだから驚きだ。
「すいません、私このプロジェクトに関わるの初めてだったのでただ聞いているだけで……」
「……ちっ、言われっぱなしかよ」
盛大な舌打ちをされ、脳内で奴の胸倉に掴みかかり顔面に唾を吐く。
そんな乱暴な私の脳みそだけど、表に出す表情はちゃんと申し訳なさそうにしている。
「こら、派遣さんに言ったってしょうがないだろ」
すかさずそんな私を中川さんが救ってくれる。中川公輔さん、40代前半の子持ちの既婚者だ。仕事に不真面目な私にもいつも優しい課長さんで、思わずうっとり、大好きと心の中で囁いた。
「経営のプロが言うんだから、指摘されたところ予算内で再検討してみよう。とりあえず、最低限グラスは揃えようか。あと、看板の変更はまだしも内観をガラッと変えるのは今からじゃ難しいなー。シェフの要望で決めちゃったけど確かにちょっと違うよな」
「あっちは、こっちの切羽詰まった状況ちゃんとわかってんのかよ」
しかし未だにイライラしているクズアキのせいで話はなかなか進まない。
一体、こんなクズのどこが良いんだろう。
優しい課長だからって遠慮なしに、ガンガン物を言っている。だけどそれはただの榊原さんに対する愚痴で、てんで中身がない。
昨日、少しだけど榊原さんの仕事している様子を見ているだけに、仕事ができない人間ってこういう人を言うのかと思ってしまう。