夢みるHappy marriage
六本木へ店舗拡大案の資料を渡され、それに目を通しながら中川さんの説明を聞いた。
「スタッフは、シェフと店長をこちらで決め、ホールスタッフの方は店長に任せるつもりでいます」
「一人本社から店長として派遣することは難しいですか?」
「出向ということでしょうか?」
出向という言葉にいち早く反応する野村。
「今までも現場でスタッフを決めてもらっていました。それで特に問題なくやっていたんですが」
内容が内容なだけに言葉が刺々しく感じられる。片桐も奥森もその言い方にピクっと反応した。そう気が長い方ではない二人のために、早めに鎮火をと丁寧に説明する。
「はいフードサービス事業を行う大半の企業で、スタッフの採用は店舗任せになっています。でも結局、店長任せにするということは、店長の個人の感覚で募集媒体を決めてしまい、結果コストをかける割に人材が集まらなかったりと効率が悪いんです。募集費用が無駄にするより、これからは本社で一括管理した方がよりコストが抑えられるかと思います」
と、説明する俺に片桐が付け加える。
「それと今後、六本木、麻布、広尾、ここに住んでいる高所得者層を狙ったデリバリー産業への参入も考えているのなら、この六本木店には本社から誰か軸になるような人がいた方が良いと思います」
「それは、またこちらの人事に関わることなので、上と相談して検討してみます」
誰かさんと違って、よく話を聞いてくれる中川さん。
野村はというと、出向が余程気に入らないのかヘソを曲げたままだ。
それを無視して話を続けた。
「昨日、桜井さんにお話ししたので伺っているとは思いますが、この地区ではイタリアンに限らず一流シェフがこぞってお店を開いています。そこと競合していく訳ですから、今までの安価を売りにし最大限コストを抑えるという戦略では上手くいかないと思います。客層はある程度舌の肥えた人達になるので、こちらも最低でもその基準をクリアできるものを提供しなくてはいけません」
「それはこっちも重々承知しているつもりです」
苦々しい顔で野村に言われ、最低限のことは改善していかないといけないとダメ押しで伝える。
「ワイングラスに関しても渋谷や新宿にはあまり種類を置いていなかったのかもしれませんが、ここでは多少コストをかけても準備して頂きたいところです。ここで成功できるかが、今後のデリバリー参入、チェーン店拡大への大きな鍵になってくると思うので」