夢みるHappy marriage
1時間程でミーティングを終え、イトウフーズの社員が部屋から出て行ったとこで、奥森が凄い剣幕で詰め寄って来た。
「バディって何ですか?初めて聞いたんですけど、いつから、うちにそんな制度できたんですか?そもそもそのポジション必要あります?あの女、社長の一体何なんですか?」
今日のミーティング中に、桜井のポジションを知った奥森。息つく間もない勢いに押されて、思わず後ずさると片桐に笑われた。
尚も詰め寄ってくる奥森を宥めていると、後ろで笑っていた片桐がひっそり小言で声をかけてきた。
「……あまり社内の雰囲気良くないんだな」
そう言う片桐の視線の先に目を向けると、そこには野村という男に怒られる桜井がいた。
「絢奈ちゃん、あれ怒られてない?お前がしょっぱなっから出向なんて言うから、あの男、彼女に八つ当たりしてるんじゃないの?」
そう言う片桐に、ちょっとした罪悪感を感じて、少しそちらの方へ耳を澄ました。
「お前が、言いなりになってるからあっちがつけあがって好き勝手口出ししてくんだよ!だから派遣に任せるのは反対だったんだ」
「すいません」
あー……、その通りの話の内容に、見て見ぬふりできず彼に一言物申そうとして近づくと、桜井の足がよろけてすかさずその体を支えた。
「大丈夫か」
彼女の顔色は真っ青で、額にはじんわり冷や汗をかいている。
この騒ぎに何事かと、他の社員達から視線が集まる。
「彼女には橋渡し役だけを頼んでいます。人事云々に関するその怒りは私にぶつけて頂きたい」
「じゃ言わせてもらうが、あんたが口出しするようになってこっちは混乱しっぱなしだ」
それが仕事なんだけどな、と後ろで片桐が笑う声が聞こえた。
「中途半端にやった結果で満足して良いんですか?あなた達にとっての最善ではなく、お客様にとっての最善を考えて下さい」
「言うだけなら簡単ですよね」
大分苛立っているようで、野村の声がどんどん大きくなっていく。
支えている桜井の肩が上下し始めて、息が荒くなってきたところで千聡ちゃんが駆け寄ってきた。
「桜井さん、大丈夫ですかっ?休憩室行きましょう」
そう言って俺に代わって桜井を支え休憩室へ連れて行く。
彼女の弱った姿に、さすがに野村も後ろめたく感じたのかそれ以上は何も言って来なくなった。