夢みるHappy marriage
事態を知った中川さんから、今日も早退して良いよ、と伝えられると、すいませんと柄にもない弱々しい声で答えた。少なからず責任を感じて、桜井を家まで送って行こうと二人には先に会社へ戻ってもらうことに。
休憩室で、疲れたのか寝てしまった桜井の顔を見つめる。
無理矢理プロジェクトに巻き込ませて、ストレスを感じさせてしまったのかもしれない。
勝手に、太々しい子だと思っていただけに今日の反応にはびっくりした。
目尻に涙を浮かべた目がうっすら開き声をかけた。
「大丈夫か?」
驚いたようにこっちを見ると、手を顔の前へ持っていき顔を歪ませた。
「あ、ご、ごめんなさい」
「桜井?」
「……どならないで」
その手が震え出して、思わずその手を握った。
「誰も怒ってないから安心しろ」
ちらっとこっちを見て、握っていた俺の手をきゅっと縋るように掴む。
ついに耐えきれなくなって目から涙が零れ落ちた。
寝ている間に夢を見ていたのか、混乱していたようだった。
しばらくして意識がはっきりしてきたのか、現状を把握してゆっくり手を離して顔を背ける。
「家まで送って行くよ」
「……いいです、大丈夫です、電車で帰れるんで」
「いや、途中で倒れでもしたら……「もう、大丈夫ですから」
そう言って頑なに一人で帰るときかない彼女。やれやれと、ため息をつくとそんな俺の顔を横目でチラ見して言った。
「ざまぁみろって思ってるんでしょう?こうやって私を指名して困らせたかったくせに」
「それは違う」
「じゃどうして、ここの案件受けるようになったの?どうしてわざわざ私を選んだの?」
「……分かった、車の中で話すから。家まで送らせてくれるか?」
そう言って、会社の近くに停めていた車へ連れて行く。
ろくな会話もないまま、何から切り出していいのやらと思案しながら車を走らせた。
「家どこ?」
「……府中の先です。だから良いって言ったのに」
顔を曇らせて遠慮した理由を言う桜井に、穏やかな口調で言う。
「別に良いよ」
話が長くなりそうだからちょうど良かった。