夢みるHappy marriage
こんな甘いキス知らない
◇ ◇ ◇
こんな自分でも人から必要とされるんだって、そう思えたらもう少し頑張りたいと思ってしまった。
『仕事なんて二の次、プライベートが最優先』それが自分の信条だったのに。
男の人の怒鳴り声が苦手だったはずなのに、あの短気なクズアキにも社長の伝言だけでなく、ちゃんと自分の意見も言えるようになった。
そんな私の姿勢にクズアキの方も感化されたのか、ただの口論じゃなく議論することができるようになったからちょっと嬉しい。
その日のミーティング終わり、社長様御一行が帰って行った後、なぜか手元に残っている大事な資料。
中川さんから確認するように問われた。
「これさっき渡してた資料だよね?」
「予備で刷った分は私が持っているので、もしかしたら、それ忘れていってしまったのかもしれません」
「えぇっ、これを元にまた会社に戻ってミーティングするのに」
「私、届けてきますよ、今出て行ったばっかだから間に合うと思います」
「本当?助かるよ、今日はこれでもう上がってくれていいから」
帰りの身支度をし足早にオフィスを出て、榊原さんの会社へ向かう。
正直来てもらうばかりで、初めてそっちの会社へ出向く。
赤坂にあることは知っていたが、そう遠くはない。
そこに明記されていたのは、誰もが知る有名なオフィスビルでそこの21Fに会社があるようだ。
タクシーを使おうとも思ったが、なかなか捕まらず、この時間さえ惜しいと思って会社まで小走りで行くことにした。この資料がないとミーティング始まらないだろうに。
……それが間違いだったようで、途中からポツポツと急に降り出した雨。急いでたから雨宿りもせず、結局雨に濡れながら会社まで走るはめに。資料だけは濡らしちゃいけないとバッグに入れて大事に抱えて走った。
こんなに仕事で必死になったのは初めてかもしれない。
まだ小雨だったから良かったけど、朝巻いた完璧なゆる巻きヘアーは無残なものに、服も靴も濡れてしまったけどこれを渡す方が優先だ。
周りの視線を感じないようにして、高層階用のエレベーターで22Fを目指す。
そこで一緒になった、良いスーツを着たお兄さんにギョッとされたけど、今はそれどころじゃない。
このビルには本当似つかわしくない、みずぼらしい人間ですけど、この資料渡したらさっさと退散しますので。
お目汚ししてしまって本当に申し訳ありません、エリートの方々。
心の中でそう思いながら、オフィスへと向かう。