夢みるHappy marriage

泣きそうな顔を隠すように、下を向きながら高層階のホテルのフロントに到着する。

そこは超高層階にある巨大な空間。ところどころフラワーアレンジメントが飾られ、当然だがロビーのソファーやテーブルなど全て格式高い調度品で揃えられている。

高い天井からはでっかなシャンデリアがぶら下がり、壁一面は大きなガラス窓で占められ、そこからは都心の夕暮れ時の夜景を眺望できた。

険悪なムードで落ち込んでいたが、ラグジュアリーホテルの景観に思わず目を奪わずにはいられない。

思わず、はぁとため息が出そうな程、夢のような空間を見渡していると、私達の到着を待っていたかのように、女性のスタッフに声をかけられた。皺一つないパリッとした黒いスーツを身に纏い、丁寧にまとめられたお団子頭を深々と下げる。

「榊原様、お待ちしておりました。いつもご利用頂きありがとうございます」

「この子だけすぐ部屋案内してくれる?」

「はい、予約時に承っております。ではこちらのジャケットもお預かりしますね。このままクリーニングにお出ししてもよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

榊原さんが了承すると、その女性は失礼しますと言って私から榊原さんのジャケットをはぎ取って行った。

どうやらこの高級ホテルの常連らしい榊原様。コンシェルジュともツーカーの仲らしく、私そっちのけで話が進む。
しかもあの受付のお姉さんが根回ししていたのか、予約した時からずぶ濡れの女が行くと伝えてあったらしく、バスタオルを持ってきてくれている。

なんだか私なんかのために、色んなところで気を利かせてもらって本当に申し訳なくなってくる。
それもこれも、私のためにというより隣の男の要望を聞いただけなんだろうけど。

そして預けた榊原さんのジャケットのかわりに、私にそのホテルのロゴ入りのバスタオルを差し出してきた。

「どうぞ、タオルを」

促されるまま、それを羽織う。

「あ、ありがとうございます」

「じゃ、あとよろしくお願いします」

そう言うと、榊原さんは私とその人を残して受付の方へ向かって行く。


「かしこまりました。では、ご案内いたします」

少し不安げにちらっと榊原さんの方を見ると、察したのか声をかけてくれた。


「チェックインしたらすぐ行く」


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