夢みるHappy marriage
女性に案内されてやってきたのはフロントから更に高い、53階という超高層階。
壁紙、絨毯、そしてセンス良く置かれたフラワーアレンジメントや絵画達、私を取り囲むそれらがただならぬ雰囲気を醸し出し、ただの部屋へと続く廊下なのに、そこはひっそり静かで重厚な空間に支配されていた。庶民にはまるで縁のなかった世界に思わず足を竦んでしまう。
部屋へ案内され、入ってすぐ目の前の光景に唖然とする。
何、ここ……。
角部屋のようで部屋の二面が窓で、東京タワーに皇居周辺、遠くにはお台場のレインボーブリッジ、球体のあるあのテレビ局、東京湾まで一望できる超贅沢なVIPルーム。
日が沈んできて、ちらほら都心の高層ビル群が光を放ち始めている。これからどんどん、東京の夜景へと変貌していく眺望に思わずうっとりしてしまう。
しばらく言葉を失って窓に張り付いていた後、広い部屋をあちこち探索し始めた。
リビングルームには何人がけ?っていうでっかなソファーと、向かい合うように置かれた一人用のソファー。
その間には光沢光る丁度良いサイズのテーブル。
ベッドルームにはキングサイズのベッドに、贅沢にもこの部屋にもソファーが2つとテーブルが置かれている。
バスルームの脱衣所も無駄に広く全面ミラー仕様になっていた。そしてお風呂にも窓があり、ここからも素晴らしい眺望が望めた。
……一体一晩いくらするんだろう。
易々と払えるなんて、さすが、社長様は住む世界が違う。
すると、不意に部屋のドアが開く音がした。
この非日常感にすっかり忘れていたが、こいつに連れてこられたんだった。
しかもなぜか機嫌が悪いという。
一気に緊張感が高まる。
「シャワー入ったら?」
私を気遣う言葉もなんだかそっけない。
そのプレッシャーに気圧されながらも、めげずに自分の疑問をぶつけた。
「そ、それよりも、なんで、いきなりホテルなんて」
「そんな恰好で、そのまま帰せないだろ」
「だけど、何も説明もなしに、いきなりこんなとこ連れてこられて訳分かんないよ。ちゃんと説明してくれないと」
「とりあえず、シャワー入ってきたら?」
「しかも、なんか怒ってるみたいだし、本当訳分かんない」
「あぁ、もう。こんなに鈍い子とは思わなかったからな」
「鈍い?」
「鏡見てこい」
そう言われてバスルームへ行く。
さっきは色々デラックスなバスルームに圧倒されて気付かなかったが、ピタッと白いノースリーブのシャツが肌に付き、うっすらピンク色の下着が透けて見えていた。一応肌色のペチコートも着ていたが、雨に濡らされそれも意味をなしていない。
あちゃーっと頭を抱えると、かぁっと頬に熱が集まってきた。