夢みるHappy marriage
これで社長がジャケットを羽織らせた理由も、シャワーを推す理由も分かったけど、私が恥ずかしい思いするだけで、別に榊原さん関係ないだろうに。
どうしてあんなに怒る必要があるんだろう。
しかもわざわざ、こんな良いホテルのこんな良い部屋をとる程のことじゃないと思う。
シャワーを浴びながら、薄暗くなってきた東京の夜景を見る。
……きっとこの部屋、スイートってやつだろうし。
私にはもったいなさ過ぎる。
シャワーを出た後、ふと目に飛び込んできた高級化粧品の数々。
こんな状況でも思わず目を輝かせずにはいられない。
この高級化粧品を惜しみなく使える幸せには感謝しないと。
手に溢れんばかりに化粧水を取って、顔に優しくぱんぱんとパッティングしていく。
濡れた服を片手に、手触りの良いパジャマを着てバスルームを出る。
すると、榊原さんは仕事をしていたのか、ノートパソコンを目の前に難しい顔をしてリビングのソファーに座っていた。液晶画面からちらっと目線を上げて私を見る。
「座ったら?」
そう言われて、向かいの大きなソファーへ座る。
言う通りそこへ腰をかけた矢先、訪問者が。
先程の女性が再びやってきて、今度は私の濡れた服をクリーニングに出すと言って持って行ってしまった。
帰れなくなるからと断ったら、社長の方から体に突き刺さるような鋭い視線を向けられ、渋々服を差し出した。
まるで人質を取られてしまったようだ。
これじゃ、すんなり帰れない。
まさか……、泊まりってことないよね?
女性が去ってついに二人きりになる。
またピリっとした緊張感に包まれる。
あぁ、いたたまれない。
私、こんなところで一体何してるんだろう……?
真意の見えない社長の行動に、少し心細くなっていると社長からメニュー表を差し出された。
「なんか頼むか?」
メニューよりもまず値段に目がいってしまうが、案の定、全然可愛くない値段設定。
分かりやすく困っていると、私からメニュー表を取った。
「俺が勝手に決めちゃって良い?」
「お、お願いします」
「何が食べたい?」
「なんでも……」
男が困るナンバー1の言葉だけど、彼はなんなく適当に料理を決めてく。
きっと値段なんて見ていないんだろう。