夢みるHappy marriage
「お酒飲むだろ?」
その問いかけに私は素直に、こくんと頷いた。
訳が分からずモヤモヤしてたけど、大好きなそのワードになんかもう色々吹っ切れる。
もう良いや、人生でもう二度とないであろう体験。
この人の魂胆もよく分かんないけど、この一時楽しまなきゃ損だ。
万に一つ、この貧相な体が目的であっても、もうこの際流されてしまえば良い。
お酒飲んじゃえば記憶もあうあふやになるし。
一瞬呑気にそう思って目の前の人物をチラ見し、色々想像してかぁーっと顔が熱くなる。
私はバカかと、すぐさまその考えを打ち消した。
この社長様に、私の体にどれだけの価値があるというのか。
思い上がりも甚だしい。
彼はきっとそんなこと私に求めてない。
「肉か魚でいったらどっちがいい?」
「に、肉、ふぉ、フォアグラが食べたいです……っ」
「了解」
控え目にそう言うと、榊原さんがくすっと笑う。
やっと素直になってきた私が嬉しい様子。
連絡するとすぐにやってきたコンシェルジュ。今度は、さっきの女性とはまた違う男性がやって来た。
「フォアグラのテリーヌと、和牛のステーキ、ロブスタービスクを2人前ずつ、あとこのサラダを一つ」
次から次へと躊躇なく料理が注文されていく。
こういう時ばかり私の頭はフル回転。一体いくらになるんだろう。
「お酒は何が良い?メイン肉だから赤ワインで良いか?」
言われるがまま、うんうんと頷く。
すると、ちょっと意地悪そうな目を向けて、
「シャンパンはいいの?」
そう聞かれて恐縮しながら、またもや控え目に飲みたいですと答えた。
「そしたら、このシャンパンをとりあえずグラスで」
「食前でよろしいですか?」
「はい」
「あとメインの時、この赤ワインをグラスで一緒に持ってきてくれますか」
……なんだろうか、この致せり尽くせり感。
なんで私こんな甘やかされてるんだろうか。
「……どうして、こんなことになってるんだろう?」
気が抜けてきて、つい本音が口に出てしまう。
「別に、ホテルに来たついでに食事してるだけだろ」
……ついでに食事。
やっぱり一般庶民の金銭感覚とは遠くかけ離れてる。
結婚記念日か何か特別なイベントがなきゃ、こんなとこ泊まれない。せいぜい1年に1回ってとこじゃないだろうか。
それを仕事終わりふらーっとそこら辺の飲み屋に行く感覚で来れてしまうのだから、その感覚にちょっと恐ろしささえ感じてしまう。