夢みるHappy marriage
着替えて部屋へ戻ると、コーヒーの良い香りがした。
「はい、飲んで」
スーツに着替え完成形に仕上がってきた彼に、西篠さんは淹れたばかりのコーヒーを差し出す。
大人しく言われるがままにそのコーヒーを飲む榊原さん。
たったそれだけの1シーン。だけど二人が立ち並ぶだけで、なんでこうも絵になるんだろう。
……さっさとここから抜け出したい。
どことなく居心地の悪さを感じて、化粧もろくになおさずこの場から立ち去る。
「あの、それじゃ私お先に失礼します。あの、洋服ありがとうございます。社長さんがちゃんと起きたら、そうお伝えください」
一言そう言って逃げるように部屋から出た。
……私にはふさわしくない夢のような一夜だった。
だけど、これから仕事っていう現実が待っている。
今日は運良く、榊原さん達がうちの会社に来ることはない。
今度仕事で会うまでに、ちゃんと気持ち整理しとかないと。
榊原さんは、好きになっちゃいけない人だって。
ちゃんと自分に言い聞かせなきゃ。
自分とはまるで違う世界で生きている人だっていうことを。