夢みるHappy marriage
波乱の予感
◇ ◇ ◇
……どうしてこんなに変わってしまったんだろうか。
東京という街が彼女をそう変えてしまったのか。
どこかで歪んでしまった彼女の恋愛観をどうしても正してやりたかった。
世の中決して、お金、外見、それだけが全てとは思って欲しくないから。
やさぐれてしまった彼女に少し焦って試すようなことをしたけど、キス一つであれだけ動揺した姿を見たら、なんだか少しほっとした。まだあの頃の純粋な気持ちが残っていたようだったから。
ホテルで一夜過ごしてから数日経っても、イトウフーズへ赴けばまだ顔を赤くしてくれる桜井に会えた。
たったそれだけで満たされていた俺の日常が、一本の突然の電話でガラリと変わることになろうとは。
「え、待って、田口さん、急に困るよ!俺、田口さんがいないと生きていけないんだからっ」
ミーティングルームに俺の情けない声が響いた。
これから環と卓哉に任せている、今期一番力を入れているプロジェクトの進行状況の報告を受ける予定なのに。
どうしてこんなタイミング悪くこんな電話をかけてくるのやら。これでは、とてもじゃないけど話に集中できる気がしない。
テーブルの一番端っこで、分かりやすく頭を抱えた。
「……社長が、あんなに取り乱すなんて珍しい」
俺の電話の様子に、卓哉がぼそっと言う。
その隣で何か勘違いした奥森が片桐に詰め寄った。
「田口さんって彼女かなんかですか?」
「違う、違う、慧人の専属のお手伝いさん」
「若いんですかっ?女ですか!?」
「渋いじじいだよ」
そう、田口さんとは俺ともう5年程付き合いのある専属のお手伝いさんだ。
御年65才になる初老の彼だが、週5で家の掃除、洗濯、食事、諸々の家事を任せていた。
家事だけではなく、時々、仕事や人生のアドバイスをくれる、俺にはなくてはならない存在の人だった。
なのに、突然休暇を取りたいとは一体どういうことか。