夢みるHappy marriage
地下鉄の電車の中、電車の吊革に掴まりながら片桐がボヤいた。
「いいなイトウフーズはもう仕事終わったらしい。この男は今日も夜遅くまで帰してくれないつもりなのかしら」
そう言って、腕時計をチラ見する。俺達だって、このクライアント先に顔出せば帰れるようなものだというのに。
「…….野村クン、買い物に来てたのかなぁ」
「あー、あそこで今ワインの試飲会やってるらしいから、それに来たんじゃないか?現地から直輸入しないと手に入らない普通の店舗では出回らないようなワインばっか出してるらしいし」
「なるほどね。店の売りになる良いワインが見つかると良いけど。てか、ワインの良し悪しあいつに任せてんの?今からでもワイン詳しい奴紹介する?」
「紹介するも何も、そもそもコンサル会社主催の試飲会らしいから大丈夫じゃないか?」
「へぇー、詳しいんだな」
「何かのレセプションで主催者とは顔見知りでな、一応顔出しといたんだ」
「はぁー、社長様は大変だな」
「一応お前にも副社長っていう立場があるんだけど、忘れてないよな」
「忘れてないよ」
そう言って笑って誤魔化す奴を横目で睨んだ。
「…….慧人はさ、俺とちーちゃんが付き合うの嫌なの?」
今まで何でもないただの雑談をしていたのに、いきなり声のトーンを落としてそんなことを言い出すものだから、不意を突かれてびっくりする。
「なんでもう付き合う前提になってんだよ?」
「え?普通に付き合うでしょ、俺と野村比べてみてよ慧ちゃん。どっちと付き合いたい?」
「どっちも嫌だ、あとその呼び方止めろ」
「何それ」
心外とでも言いたげに、ちらっと俺を睨んだ。
「でも今回は多分本気だと思うんだよね」
こいつとは大学からの付き合いだ。
一緒に会社を興し苦しい時を一緒に乗り越えてきた仲間でもある。
仕事だけではなくプライベートでもお互い1番仲の良い存在であろう。
だからこそ断言できる。
こいつの本気は全く信用できないということを。