夢みるHappy marriage
……え、え、何事!?
小さなオフィスのあちこちから声がする。
廊下に出たところで、少し頭が冷えたのかこいつには珍しくバツの悪そうな顔をして振り向いてこう言った。
「……悪い、この案件から俺外して」
「当たり前だ、何やってんだよ。公私混合も甚だしい、帰って頭冷やせ」
「だって、ちーちゃんのこと悪く言うからっ」
そう言った矢先、たまたま通りがかったちーちゃんと出くわしてしまう。
絶妙なタイミングに、二人同時に口を噤んだ。
「私がどうかしました……?」
心配そうに小さな頭を傾げる彼女。
俺は片桐の背中を押して、先に帰るよう促した。
「なんでもないよ、ちょっと野村さんと言い合いになっただけだから」
「……彼、私のこと何か悪く言っていたんですか?」
ここまで感付かれていては、もう誤魔化すことは難しそう。
それに彼女にとっても、話しておいた方が良いのかもしれない。
「野村さんと付き合ってるんだよね?外野がとやかく言うのもなんだけど、彼はやめた方がいいと思う」
「どうしてですか?」
「いや、野村さんって、白坂さんの他にも女の子がいるみたいだし。それにさっき、白坂さんとは付き合ってないみたいなことを聞いちゃって。まぁそれで片桐がキレたんだけど」
「片桐さん、私なんかのために怒ってくれたんですね」
「だからさ、あんな男やめた方が良いよ」
「でも、大丈夫です。私知ってるんで、野村さんに他に付き合ってる女の子がいることも、私が遊ばれていることも」
「え?知ってて好きなの?」
「はい」
「だって野村さん優しいから、私なんかを可愛いって言ってくれるんです。それが例え嘘でも、お世辞でも嬉しいんです」
「はぁ……、ちなみに片桐のことはどう思ってるの?」
「片桐さんですか?いつも声をかけてくれるんですけど……すごくドキドキします」
顔をぽっと赤くして恥ずかしそうに話す彼女。これはやっぱり脈ありかと、期待して食いつき気味に話しを聞く。
「うんうん」
「社長さんも、奥森さんもきりっとしてるからいつも緊張しちゃいます」
……あぁ、そこ同列なんだ。
外部の会社の人間で、片桐はその中でも自分にちょっかいを出してくる面白いお兄さん位の認識なのだろうか。
てっきりちーちゃんも片桐を意識してると思い奴に釘を刺したが、全くの見当違いに、嬉しそうにジュエリーを見ていた片桐に申し訳なくなってくる。
「私がこんな風に情けないから、野村さんに振り向いてもらえないんですね」
しょぼんとあからさまに落ち込む彼女に、そんなことないよっと声をかけた。