夢みるHappy marriage
「わぁ、ありがとうございます、桜井さんお化粧上手ですね。自分じゃないみたい」
「これもしリップ落ちちゃった時使って、どっちが良いだろ。エスティーローダーの3番か、イブサンローランの51番か」
そう言って二本の寒色系ピンクのリップを出す。
「ひ、品番まで覚えてるんですか?」
「婚活リップで名高いブランドでね、何本か持ってるから」
「桜井さんが今付けてるのは?」
「イブサンローランの15番、異名があってね、プロポーズさせるミルキーコーラルっていうの」
「異名なんてあるんですね。そしたら私もこっちが良いです」
「その色はなんだっけ?可愛い感じだったと思うんだけど」
すると携帯で検索し始めるちーちゃん。出てきた答えに嬉しそうに携帯の液晶画面を見せる。
「桜井さん、恋が叶うマカロンピンクですって」
「それあげるよ」
その様子が可愛くて、そのリップはちーちゃんにプレゼントすることに。
「え、悪いです、こんな高そうなのもらえません」
「いいよ、元々あまり使ってないし。それに私よりずっとその色はちーちゃんに似合う」
「本当に良いんですか?嬉しい」
そう言って小さな顔を綻して喜ぶ彼女。
可愛いのは顔だけじゃない、純粋な謙虚な性格がそのまま顔ににじみ出ているから可愛いのだ。
「……ちーちゃんは、元々のパーツが良いよね。何よりも肌が綺麗だし、ファンデーションのノリが全然違う」
「のり?」
「やっぱり、ちーちゃんにあのクズアキは勿体ないよ。若くてそれだけ可愛いんだから、もう少し遊んで男というものを知った方が良い」
「やだなぁ、勿体ないなんてことないです。付き合ってもらってるのは私の方なんですから」
いやだなぁ、私から誘って勝手に化粧したのに。ふとした瞬間、劣等感に苛まれてしまう。
私も元々可愛かったら、こんな卑屈な性格になることもなかったろうに。
「そうそう、メガネしなくて大丈夫?」
「な、なんとか」
そう言って、へへへと笑う彼女。
ちょっと心配になるが、大丈夫、焦点は合ってる。
その眼鏡をかけるよりは、車にひかれないだけの、人と視線を合わせられるだけの視力があれば良い。