夢みるHappy marriage
不意に榊原さんにじっと見つめられ、ドキっとする。
「……桜井さんはさ、どうして俺に申し込んでくれたの?」
「そうですね、やっぱり将来ある程度余裕を持って暮らしたいので、安定した収入のある方ということと。あとは自分で企業した方に憧れてしまうところがあって、そこで成功された方ってやっぱり仕事ができて、自分の仕事に対してとても熱量を持って取り組んでいる方だと思うので」
「そうですか。私の会社は、今となってはここまで成長してくれましたが、当初は失敗するリスクだってもちろんありました。今でこそ成功したと言える程経営も安定させることができましたが、もし上手くいっていなくても私とお付き合いする気になりました?」
「はい、そういう野心的な、挑戦するという姿勢に惹かれますので」
「挑戦する姿勢ですか、そうですか」
……何か気に障ることを言っただろうか。微笑んでいた榊原さんの表情に一瞬翳りがさしたのを見逃さなかった。
レモネードに手を伸ばし一口飲む。少しの沈黙の後、榊原さんの方から思いもよらない人物の名前が飛び出した。
「……ところで、川村正吾という男をご存知でしょうか?」
「え……っ!?、はい……」
その人とは1年前に、1年半程付き合っていた彼氏だった。あまり良い別れ方ができなかったため、額に冷や汗が滲む。
「実はそいつとは大学時代の友人でして。元々UMJの本部でエコノミストとして働いていたんですけど、会計士の資格をとりたくて仕事を辞めた途端あなたにこっぴどくフラれたっていうから。でも、今言っていることと随分違いますよね?挑戦する姿勢に惹かれるんじゃなかったんですか?」
「そ、それは……」
「私の会社は、前勤めていた会社から5人で独立し、最初は6畳程のワンルームから始まりました。おかげさまで今となっては成功したと言える程まで成長してくれましたが、最初は資金繰りで大変な思いをしました。あなたがもしその時の私に会っていても、見向きもしなかったんでしょうね」
……もしかして、私、ハメられたってこと?
友達を振った相手に仕返ししてやろうって?
はっ、社長のくせに暇な奴。
こうなったら相手に気を遣う必要もない。
あっつい化けの皮をずる剥けにして、今までのほんわかした表情からさっと微笑みを消す。