夢みるHappy marriage
「あの人達と知り合いなの?」
こそこそやり取りをする私達にそう尋ねられ、素直に頷こうとするちーちゃんに慌てて自分の声を重ねた。
「え?は「いえ、今日初対面です。やだな千聡ちゃんってば、見間違えじゃない?私達にそんな知り合いいないじゃない」
「?」
意味が分からないといったような表情のちーちゃんに、こそっと耳打ちをする。
「……だめ、あんなハイスペックな異次元メンズ達と知り合いだなんて、バレたら引かれるでしょ」
「?」
その説明にも理解を得られないのか、彼女の頭の上にはハテナマークを浮かばせたままになっている。
話の最中にも、ちーちゃんの気はそぞろ。チラチラ台風の目を見ている。
「すごい人だかり」
「ちーちゃん、あんま見ちゃダメ、なるべくバレないように。せめてこの人達の連絡先をゲットするまでは……っ」
運良く群がった女の子たちのおかげで、未だ私達のことはバレていない。
その隙にと思ったのに、何やら、女の子達のきゃっきゃっという声が途絶えた気がした。
「さ、桜井さん、も、もう無理だと思います」
ちーちゃんのその声を皮切りに視界が陰る。慣れたこの身長差、隣に立った男の正体はすぐに分かった。
ゆっくり社長様を見上げると、そこにはにっこり笑う彼。目はちっとも笑ってなくて背筋が凍った。
「あれ?奇遇だね」
……奇遇な訳あるかぁーっ!
「桜井、今日言ってた用事ってこれ?」
そう話しかけられ、思わず何も言えずに硬直する。すると、おじさん達が気まずそうに尋ねてくる。
「し、知り合い?」
その質問に、なぜか社長様が笑顔で答える。
「えぇ、彼女達とは仕事がきっかけで知り合ったんですけど、それ以来親しくさせてもらっているんです」
「へぇー、そうなんだ。じゃ、話せて楽しかったよ」
そう言って、そそくさと去って行ってしまった。
あともう少しで連絡先をゲットできるところだったのにっ!
恨めしそうに榊原さんを睨み付けた。
そんな私に、嫌味たっぷりに不敵な笑みをたたえる社長様。
その胸元には、9という数字が。
もうなんだっていうの!
私のあの高揚感を返して。