夢みるHappy marriage
「……榊原さんてさ、一体何人女の人囲ってるの?」
「は?」
「まぁ私には関係ないことだけど……、どうせ私もその一人なんでしょう?家政婦なんて頼む位だから、その一人の予備の予備のそのまた予備位?」
「ちょっと何言ってるか分からないんだけど」
なんか少し悔しくなって、口を少し尖らせた。
「……まぁいいや、もしまた予定が空いた時は教えてください。私でよければ喜んでお相手させて頂きます」
目も合わせず他人行儀にそう言うと、榊原さんの声に怒気がこもる。
「何言ってんだよ、この前全然余裕なかったくせに」
「それは突然だったから、心の準備ができてなかっただけだもん。だけどこんなに割の良い副収入ないし、もちろん家政婦もするつもりだけど」
「……じゃ、キス以上のことをしても良いんだな?」
またあの目になる。
まるで獲物を狩ろうとするような鋭い目付き。
元々きりっとした目元をしているから、尚、迫力が増す。
私を捕えて離さないその目で見つめられると、私は途端に弱くなる。
「べ、別にいいよ、減るもんじゃないし」
「……分かった、俺の隣に来い」
「こっ、ここ、お店」
「分かってる、とりあえずキスだけにしといてやる。手短に済ますよ」
「だって、注文まだ全部来てないのに、お店の人来たら見られちゃうよ」
「先に挑発してきたのはそっちだろ、早くしろ」
こちらに有無を言わせない物言い。
だけど彼の怒りに火をつけてしまったのは私だ。
だけど、なんでそんなに怒るの?
私そんなに怒らせるようなこと言った?
大人しく従って、座る彼の隣に正座をする。
すると、すぐに顔が迫ってきて、恥ずかしくてぎゅっと目をつむって唇にくるであろう衝撃に備えた。
だけど、いつまでもその感触はやってこなくて。
不思議に思って、うっすら目を開けると、寸止めって奴。
顔から火が出そう、チラっと榊原さんの顔を見て、すぐにその視線を下に持って行った。思わず畳の上に置いていた手で握りこぶしを作って肩に力が入る。下唇をきゅっと噛んで、そして榊原さんに懇願した。
「す、するなら早くして……っ」
「それ、せがまれてるってことで良い?」
声を出さずに笑う榊原さん、何がそんなに楽しいか分からない。
こっちは今にも心臓張り裂けそうなのに。