夢みるHappy marriage



そして、私の握り拳を榊原さんの手がほどいていく。強張っていたのに、男の人の大きな手で簡単にほぐされてしまう。
そして私の手に覆いかぶさると長い指が、私の指の間に絡んできて俗にいう恋人繋ぎというものをさせられた。
なかなか終わらない緊張に、胸が痛い程に苦しくなってくる。


「もうなんでもいいから早くして、こんなの心臓もたない……っ」

余裕のない私に、また嬉しそうに、いやらしく笑う。

感服した私が見れてこれで満足ですか……?

悔しさで涙が滲む、今度は口づけされるまでうっすら目を開けて見ていた。

……っ、ちゅっと唇に触れる、あの榊原さんの感触。
繋いだ手とは逆の手が私の頭の後ろに添って支えてくれる。

あぁ、嫌だ、嫌だ。また、

この人のキスに溺れていく。……思考を奪われていく。


ゆっくり、唇が離れていってこれで終わりかと思ったら、正座していた足の間に榊原さんの膝が割り入ってきて、そのまま後ろへ倒されてしまった。体勢がきつくて、片足を伸ばすと完全に畳の上へ押し倒されてしまう。

抵抗しようと伸ばした手も無駄な足掻きで、畳の上に簡単に抑え込まれてしまった。


「キ……っ、キ、キスで終わりって……!」

たまらず慌てて、目の前の彼に訴える。


「分かってる、キスしかしないから安心しろ」


そう言うけど、そんな雰囲気、微塵もないのは気のせい……っ?

唇がぶるぶる震えるのが自分でも分かった。
情けない、これじゃ経験少ないって笑われても仕方ないのかもしれない。

あぁ、やばい、本格的に泣きそう。
嫌だ、泣きたくない、私だってこれ位できる。
たかがキス一つ、こなせなくてどうする?

もう27だよ?もうバカにされたくないのに。

だけど、私の体がおかしいんだ。言うこと聞いてくれないの。

確かに、経験は少ないけど慣れてないけど、初めての時だってこんなにパニックになることはなかったのに。


相手が榊原さんだから……?


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