夢みるHappy marriage
「実は榊原さんとは前から顔見知りで、今家のお手伝いを頼まれているんです」
「どうして桜井さんが?」
額だけじゃなく、自然に整えられた形の良い眉、その眉根を寄せて更に追及される。この表情から察するに、もしかしたら榊原さんのこと好きなのかもしれない。
「大丈夫ですよ、私と榊原さんの間にそんなやましいことはありませんから。私に頼んだのも気を遣わないからであって」
「やましいことだらけですよ、最初からあなたは特別扱いされてた。何の知り合いだったんですか?」
言いにくそうに切り出してきた時とは打って変わって、口調が少し強くなって圧倒される。しかし、何の知り合いだとか聞かれると、お見合いだとか、元カレ云々の話になってくるから。さすがにそこまでは言えず、思わず口ごもってしまった。
「ずっと社長のことを想っていた人がいるんです、私の憧れの先輩なんですけど。どうしてもあなたと比べてしまうんです。……どうしてあなたを選んだのか私には理解できない」
「私は……、決して榊原さんに選ばれた訳じゃありません。そもそも、あの人は誰かと付き合うっていうことを考えていないように思えます」
そう、自分で言ってて、少し切なくなった。
あぁ、今朝感じた寂しさの理由はもしかしたらこれなのかもしれない。
榊原さんは私をよく弄ぶけど、そこに好意だとかそういう甘酸っぱい感情はないように思える。
だからいくら榊原さんに夢を見たところで、叶いっこないのだ。
私も最初からそれは諦めているし、自分の身もわきまえているつもり。
ただ、私は今、よく分からない彼の気まぐれに付き合っているだけ。
私の曇った表情に何か察したのか、そこで話は終わった。
ぺこりと頭を下げて去っていく、奥森さん。