夢みるHappy marriage
そう一人で意気込む私に、はぁと遠慮なくため息をもらされた。
「そんなに無理しなくても、自分らしくいられる場所で無理せず楽しめば良いだろ。厳しいこと言うけど、自業自得だろ。今までろくに自己管理もできずに甘えて生きてきた象徴がその体だろ?これからもそんな自分を受け入れてくれる場所でぬくぬく生きて行けばいいだけだ」
「それじゃだめなんです。だって、もう悔しくて悔しくてしょうがない……っ。きっと私の人生は下剋上なんです。どれだけ成り上がれるか自分次第ならやるしかない。あがいてあがいて、あいつらに見返してやらないと、もう気が済まない」
ここで生まれ変わりますと、勝手に決意表明を語る私に彼もあきれ顔で笑う。
「すごい、負けず嫌いなんだな」
「……無理だと思いますか?」
「分かった、ここで待ってるよ。自分で自分に自信を持てるようになったら、またおいで」
そう言って微笑む彼、その手が私の頭に乗っかる。
背の高い彼が私の顔まで屈んで視線を合わせ、
「大丈夫、君はきっと誰よりも可愛くなれる」
そう言って、私の髪をくしゃっと撫でた。
何気なく私を励ましたつもりで言った言葉だったんだろうけど、私にはまるで魔法でも唱えられたかのように思えた。そんな不思議な感覚だった。
そして、綺麗になったと自分に自信を持てた頃にこのクラブを訪れたが、もう彼の姿はそこにはなかった。
私がどれだけ落胆したかなんて、きっとこの人には分からないだろう。
きっと本当に私が痩せられるなんて思っていなかっただろうし、たった一人のデブな女にかまけている程榊原さんも優しい人じゃなかったろうし。
それでも、こうやって覚えててくれたのは嬉しい。
「よく覚えてたね」
「そりゃ覚えてたよ、何だこの威勢の良いデブはって。最初は泣くかと思って慰めのあてになんてされたくなかったから早々に立ち去ろうと思ってたんだけど、いきなりすごい剣幕で語り出すから面白くて。どれだけ変われるかさぞかし見ものだって期待してたんだけど」