夢みるHappy marriage


「それが、私に構う理由?愛人契約の正体?良い大人の女にはなれてないかもしれないけど、まともな恋はしてるつもりだよ……っ」

つい感情的になってしまう。
こんな顔でこんなセリフ言ったら、好きだって言ってるも同然なのに。

そんな私の気持ちを察したのか、彼は少し言い淀んでから続けた。


「……それはまともな恋って言えないだろ。ちゃんと中身も含めて好きになれないと。どうせお前の中の俺には社長っていうフィルターがかかってて、それを外したら俺はお前にとって何者でもなくなるくせに」


社長っていうフィルター?
そうだよ、社長さんは社長さんでしかない。
榊原さんの魅力の8割、いや9割はそれと庶民とは桁違いの年収なんだから。

それしかない。
彼の魅力なんてそれしかない。

まるで自分に言い聞かせるように、同じ言葉を頭の中で繰り返した。

寝起きはめんどくさいし、お互い少し口を開けば言い合いになるし。

榊原さん自身の魅力なんて……。


お見合いで出会った日から今までを振り返ると、涙が滲んできた。
ここで泣いたらダメなのに、惨めな気持ちになるだけだから。

だって、きっとこの人は、本気で自分に気のある人間にはもう優しくしてくれない。

自分の気持ちを打ち明けてしまったことを強く後悔した。
これなら、ひた隠しにして、もう少し甘い夢を見ていれば良かった。

もう少し賢く立ち回れれば良かったのに。

だって、どうしても納得がいかなかった。
涙をのんで榊原さんの方を見つめなおして、尋ねる。


「……人の気持ちを恋じゃないって、どうして言い切れるの?」

「言っとくけど、俺には恋愛できない。お前みたいな女とは特に」

あまりにもばっさり切られ、唇がわなわな震えるのが自分でも分かった。


「じゃ今までのは全部、お遊びだったっていうの」

「……そう言われてもしょうがない。どうする?手の内明かしたところで、まだ続けるか?」


この先に繋がる未来なんてないのに。

この甘い関係が、夢のような一時が壊れてしまうことの方が怖いと思えてしまうなんて。

というか、今までこれだけ甘やかされてきて、一生分の夢見させられて、好きになるなっていう方が無理があると思うんだけど。



< 94 / 107 >

この作品をシェア

pagetop