夢みるHappy marriage
「あの、中川さん、この川村さんって人、」
何が何だか分からなくて混乱する中、中川さんに尋ねる。
そんな私の話が耳に入っていなかったのか、私の言葉を遮って話し続けた。
「桜井さん、ごめんね、すごく言いづらいんだけど。次の契約期間は延長しないって言われてて」
申し訳なさそうに言われ、一瞬頭がフリーズした。
だけど、なんとなく察していたことだ。全く心の準備をしていなかった訳じゃない。
あぁ、来月から無職だ、次の職場はどうしようか、とか考えなきゃいけないところを私の頭の中は、川村正吾のことでいっぱいだった。
「……あ、いえ、なんとなく察してたので。それよりも、」
「本当に悪いね、よく働いてくれてたと思うんだけど。俺もさっき突然人事部に言われて、本当なんで突然こんな大事な時期に」
「いえ、本当良いんです」
「それで今度のレセプションで最終日になるから、それが終わってから送別会とかどうかなって思ってるんだけど、どうかな?」
「いや、そんな派遣社員なのに悪いです」
「そんなことない、なぁ」
そう言って周りにいた社員に同調を求めるも、その反応は予想外にも冷たいものだった。
「……」
しんとするオフィス。おかしい、猫かぶって良い子ぶっていたから私の心象は悪くなかったはず。
「榊原さんととできてたなんて知らなかった」
「これからは社長の安泰した暮らしのもと専業主婦だもんな。羨ましいよなー」
漏れ出る声にびっくりして何も言えない私に、中川さんが慌て出す。
「な、何言ってんだよ」
「なんか桜井さんが言い寄ったってもっぱらの噂ですよ?」
……突然の契約終了はこの噂のせいなのだろうか。
誰も聞く耳なんてもたない、そう分かっていても弁解しない訳にはいかなかった。
「な、何か誤った噂が流れているみたいですが、榊さんは私なんか嫁にしませんよ」
笑ってそう言うが、やっぱり誰も聞いていない。
最後の最後で居づらくなるなんて。
もういい、こんなことでへこたれる私じゃない。
それにもう少しでこの会社ともオサラバだし。