夢みるHappy marriage
「……以前言っていた榊原さんを想っている人ってあの人ですよね?」
「えぇ」
「すごく綺麗な人ですよね、私も以前お会いしたことあったんですけど、次元が違うっていうか」
「……あなたと榊原さんて本当に何もないんですか?」
「ないですよ。そう思うのもおこがましいです、あなただってそう思うでしょ?」
はっきりそう言い切ると、猫目の今までのスカしたような態度から一変、困惑した様子になる。
「……ごめんなさい、二人の噂流したの私なんです」
そんな自白にやれやれというような私。
「なんとなくそんな気がしてました」
「怒ってないんですか?」
「いや、私もそれでやっと目が覚めたっていうか」
会社の人から煙たがれるようになり感謝こそしてはいないが、これがきっかけで榊原さんからやっと離れる決心がついた。
「いや、それさすがに怒った方がいいよ。絢奈ちゃん」
私達の会話に割って入ってきたのは片桐さんだった。
私に向けられた声色は優しいものだが、奥森さんを見つめる目は今までになく厳しい。
「か、片桐さん」
ちぃちゃんもそんな目をする彼は初めて見るのか戸惑うように声をかけた。
「お前、自分が何やったか分かってんの。自分の会社の社長の評判下げるようなことしてんじゃねぇよ」
「……っ」
「そんなにあいつ取られたのが悔しかったのか?悪いけどさすがにこれは看過できない、慧人にも言うからな」
女の子には基本甘い人だと思っていた。それが部下となるとこんな厳しい一面があるなんて、どこに目線を向けていいのやら思わず目が泳いでしまう。
「あんま失望させんな」
奥森さんのいつも意思の強そうな目に、今は零れんばかりの涙が溜まっている。
……あぁ、この人が好きなのは榊原さんじゃない。
そのまま片桐さんは、きっと当初の目的であったちぃちゃんの小さな肩を抱いてどこかへ行ってしまった。
その2人の後ろ姿を見る奥森さんの目があまりにも切なくて、嫌がらせをされたというのに同情せざるを得ない。
その目を知っているから。……私もそうやって涙が零れるのを必死に我慢するから。