ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
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ダイさんが死んで、母さんは。


地の果てに突き落とされた心地でした。


ダイさんの後を追いかけることしか考えられなくて……お腹に包丁を向けていたところを、ある男性に止められて。


彼に『息子さんはどうするんだ』と怒られました。


……彼が、リンの父親で……ダイさんの知り合いの方で、ちょくちょくうちに遊びに来て下さってた方でした。


彼には奥さんがいたけど、その奥さんの方が浮気とかで……一方的に家を出ていってしまっていて。


ダイさんもシンラも私から離れていってしまった、という寂しさにどうしても勝てなかった。


そして一度だけとはいえ、彼と結ばれてしまった……ダイさんを亡くしたばかりなのに、いとも簡単に裏切ってしまったことがものすごいショックで……


そんなどうしようもなく悲観に暮れていた時に、ダイさんの部屋に一通の手紙が置いてあったのを見つけました。


……それで、母さんは自責の念というか罪悪感から救われました。


そして、心に決めました。


この手紙はなかったことにする、たとえその結果どれだけ辛い状況になったとしても。


手紙は何度も何度も読み返してから……燃やしてまったので、もう手もとにはありません。


……今の、18歳のシンラになら見せられたかもしれない。


だけど、母さんの中のシンラは、……こんなこと言ったら貴方は鼻で笑うかもしれないけど、ずっとあの時のままでした。


家を出て城に行くと言った、6歳のあの頃のまま……


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