ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
ダイさんは、あの大雨の晩に一週間ぶりに帰って来た。


既にあちこちの崖が土砂崩れを起こしていて、天気の回復次第で復旧作業があることは分かっていたから。


ダイさんは、そこで自ら死ぬことを決めたんだそうです。


そして、遺書として手紙を母さんに遺してくれた。


どうせ死ぬなら仕事場で……ダイさんは男としての意地というよりむしろ、金銭面を考えていた。


労災、という形で少しでも母さんにお金を残せるように。


自殺だけど、不注意による事故にみせるには、うってつけだと思ったんだそうです。


……ダイさんの思惑どおりに事は進んだ。


お金ももらえたし、……彼とのことも、ある意味ダイさんの見越した事だった。


ダイさんは手紙の中で、シンラには本当のことをちゃんと話すように、としつこいくらい何度も書いてました。


そうでないと、父さん思いのシンラは母さんを恨んでしまうから、と。


……だけど、母さんは貴方にこのことを伝えたくなかった。


ダイさんの決死の自殺を、新聞では名誉の事故死と書いてました。


シンラ、貴方にも『父さんは自殺』ではなく『名誉の事故死』として受け取って欲しかった。


母さんの今後の生活の為に、残り幾ばくかの命を懸けてくれたダイさんだけど……その行為は世間様には通じないことだと思います。


このことが露見すれば、生前のダイさんの功績まで否定されてしまう気がした。


そして、母さんはそれだけは絶対に嫌だった。


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