ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
*****


「……母さんを。

父さんが、迎えに来てた」


この一言で片づくだろうと思ったのに彼女は首を傾げたので、もう少しつけ加える。


「父さんと母さん、何か話してたけど……ん~……覚えてねえや。

まあ、ご都合主義の夢、だしな。

俺は……それを遠巻きに見てた。

夢の中でだけど、ああ、母さんはようやく父さんに会えたんだ、よかったなあって思った。

……ずっと、会いたかっただろうしさ、母さんは。

父さんに……」


彼女を見ると、眉間にしわを寄せていた。


何か納得していないようだ。


「……んだよ、聞いたんはお前だろ。

眉唾もんだって顔、してんぞ」


「違うわよぅ。

シンラはどうなのかなって。

そう思ったんだもん」


「俺……?」


「お父さんお母さんを、見てただけ、なの?

……シンラだって会って、話したかったんじゃないの……?」


モモにじっと顔を覗き込まれた。


……そういや彼女は、両親との思い出どころか、名前や顔すら記憶にないんだっけ。


「……お前の期待には応えられてねえだろうけど、さ」


「え?」


「ちぇ……これは言う気なかったんだけどな。

夢ん中で二人にさ。

何か言おうとはするんだけど……我ながらなんてっていいか分かんなかった。

だから……見てるだけしか出来なかったし、それだけでよかったんだ。

二人がわだかまりなく再会出来たなら、……それだけで」


「……そんな、もんなのかな……?」


「それだけで、よかったのに。

二人はこの後……もう会えない場所に逝くんだろなって気付いた途端、たまらなくなった。

……そしたら、二人が、……」


枯れていたはずだったのに。


不覚にも湧き出てきやがりそうになった。


……違う、枯れてたんじゃない。


蓋をして、こぼさないようにしてただけだ、必死で。


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