ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
「あ、あの……っ、戦師さん……ですよね?」


「お、分かるか?

まあ……あのおばさんなら喋るか。

おばさんとこの兄ちゃんの方の兄貴分してるよ。

知ってっか?」


「イサキさん……ですよね。

まだ会ったことないけど、聞いてます。

……戦師さん、のことも」


「んー……なんべんか遊びに来たし、こないだ来た時は店番まで頼まれたしな。

結構売れるよな、ここのパン。

まあ、うまいしな」


「あ、あの……っ」


「ん?

なんだよ」


「その、ファン、なんです、その、は、母が……戦師さん、の……」


義妹は顔を真っ赤にさせていた。


なんていうか……いじらしかった。


ファン……ねえ。


あの母親は自分のことをこの子に、そう言ってるのだろうか……否、それは違うだろう。


仮にファンと言っていたのなら、初っ端のリアクションに結びつかない。


あれはどう見ても困惑だった。


「……名前は?」


「リン……っていいます」


「ん。

リンのお母さん。

今はいないのか?」


「さっき……近所の幼稚園に、配達に。

もうじき帰る、とは思うんだけど……」


見れば彼女は明らかにソワソワしていた。


手にとるように気持ちが分かったから、言ってやった。


「……お母さん。

帰るまで、待ってようか?」


「ほ、 ほんと!?

よかった……」


自分だけ、義兄に会うことを、母親に悪いと思ったのだろう。


まあ自分も帰れない事情があったのだ。


ウーさんに、母親との対面の報告をしなければいけない。


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