ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
店の前に1台の車が止まっている。


「お母さん!

お母さん、大丈夫?!」


義妹が後部座席のドアから、中を覗きこんで叫んでいた。


幼稚園の保育師なのだろう彼女がドアを開ける。


「大丈夫ですか?!

もう着きましたからね、しっかりして下さい!」


彼女はぐったりしている母親に声をかけ、母親の肩に手をまわして起こそうとする。


しかし、母親は頭を抱えたままで後部座席から動かなかった。


……久しぶりに。


本当に久しぶりに見た母親は、ひどく弱々しく痛々しかった。


胸が痛くなった。


感情より先に、体が動いていた。


「お世話になりました。

後は俺が運びますから」


もうこうなったら四の五の言ってられなかった。


無理矢理にでも母親を背負い、車からおろした。


お大事に、とだけ言って彼女は行ってしまった。


親切ではあるが、事務的すぎる女だと思った。


「お母さん!

お母さんってば!

ねえ!」


リンが泣きそうな顔で、すがるように声をかけてきた。


「頭なの?

いつもの心臓の方じゃないの?

お薬飲む?

やだ、ねえ、しっかりしてよう……」


母親を店の入り口まで運び、その際片手で営業中の札を準備中に変える。


「リン、ついててやれ」


母親を壁際の床に座らせ、自分は携帯で救急車を呼ぶ。


全く……あの保育師の女。


いくら母親がいいと言ったにしろ、だ。


この状況なら普通、救急車だろうが。


そんなに厄介な現場には巻き込まれたくないってか。


……なら自分はなんなんだ。


思わず自問してしまう。


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