離婚、しませんか?
そのまま膝の上で両手を組んでじっと床に目を落としながら、幾度かなにかを言いかけては口を閉ざしていたけれど、やがて、ひとつ大きく息を吐き出すと思い切ったように話し始めた。

「……光、そのものだったのは、あいつの方だよ。
実花は、オレなんかには勿体ないほど優しい、周りの人間まで明るく照らすような、本当に心の中まで綺麗な子だったんだ。なのにオレは……」

言い淀み、組んだ両手を強く握り締めた夫の横顔が、苦い物を口にしたように歪む。

「オレがあいつと最後に交わしたのがあんな会話だったなんて。あそこまで思い詰めてたあいつを、もっと気遣ってやるべきだったのに……本当に、無神経で最低なヤツだろ?」

一瞬だけ私を振り返ったその顔には、自嘲するような笑みが浮かんでいた。
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