エイプリルフールの夜に
エイプリルフールの夜に
おれの奥さんは世界一可愛い。

一足先に脱衣場から出たおれは髪をタオルで拭きながら満足げに鼻歌を歌いながらリビングに出てきた。

どうしてこんなにいい気分なのかと言うとその理由は決まりきっている。

久しぶりに可愛くて仕方ない奥さんと「一緒にお風呂」ができたからだ。

普段は照れ屋で恥ずかしがりの彼女はどんなに誘っても一緒には入ってくれない。

ただ、唯一の例外として真崎家のルールがある。

『夫婦ゲンカの仲直り方法は一緒にお風呂』

これを結婚したその日に「夫婦ゲンカの仲直り方法は"一緒にお風呂"が決まりだよ」と伝えたところ、世間知らずな奥さんは真っ赤になっておろおろしていたが、「それが世間一般のルールだから、うちのルールにしよう」と言うと「……分かった」と恥ずかしそうに了承した。

普通に誘っても一緒に入ってくれないのは目に見えていたから(実際恋人時代に一度も入ってくれなかった)、おれの作戦勝ちと言える。

さっきも先に身体を洗って湯船から心が身体を洗うのを盗み見ていると恥ずかしそうに頬を染めて「見ないで…」なんて言っていて、それだけで鼻血ものの可愛さだった。

あまりに泣きそうな顔をするから「コンタクト外したから見えないよ」と言ったらちょっと安心していたが、嘘ですばっちりコンタクトしてました。

可愛い奥さんの白くて美しい肌を見て愛でることの何が悪い。

誰がなんと言おうとおれだけの特権だ。

今朝のちょっとしたケンカすら「一緒にお風呂」の理由になると思えばその場でにやけてしまうのを我慢するレベルのご褒美だった。

お風呂場での心の身体の洗い方や頭を洗っている時の胸の揺れを焼き付けるように頭の中で再生しているとリビングのドアが開く音がした。

振り向くと濡れた髪のまま首にタオルを巻いた心が立っている。

「心、おいで」

不埒な想像を一瞬で頭の中のファイルにしまい、爽やかな旦那の顔でまだ少し恥ずかしそうにしている彼女を呼び寄せた。

「うん…」

そう言って隣に腰を下ろした心からはおれと同じシャンプーの香りがして、それだけでぎゅっと抱き締めたい衝動に駆られた。

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