始まらなかった恋
次の日、俺が教室に入ってもいつも先に登校している山岡の姿が無かった。
鞄から教科書を取り出していると山岡が俺に声をかけてきた。
俺はいつもの様に返事をする。
「ちょっといい?」
山岡から二人で話をしようと呼び出されるのは初めてだ。
肯定の意思を伝えて「珍しいな」とつい声に出てしまう。
山岡の神妙な顔に俺は期待してしまった。
俺に山岡の気持ちを何か伝えようとしてくれているのかもしれない…と。
でも、それは全く違った。
ただ山岡は俺と友達に戻りたいと言った。友達の枠を超えられないと…
やっぱり山岡は俺のことなんて好きでは無かった。
想像していたことだけど、やっぱり辛い。
何より、優しい山岡を無理やり付き合わせていたのだと思うと恥ずかしいとさえ思う。
イヤだったら断りやすいような告白を…なんて思っていたはずなのに、どこかで断られるなんて思ってなかった傲慢な自分が居たことも確かだ。
それでも、自分の気持ちを押し付けてグイグイ山岡との距離を縮めるようなことはできなかった。
初めての恋愛でどうしていいか分からなかっただけだけど…
今、山岡が俺に友達に戻ろうと言えているのは、俺が山岡を好きだと知らないから。
俺が山岡を好きだと知ったらきっと山岡は俺への気持ちが友達以上にはなれないと分かっているのに付き合い続けてくれたのだろう。
もしかしたら山岡はこれからも誰に告白されても受け入れて、よほど嫌な奴でなければそのまま流されて付き合い続けていくのかもれない。
それは優しさなのだろうか…違うだろ。
恋愛において、相手の気持ちばかりを考えて自分の気持ちをないがしろにするのは優しさなんかじゃない。
…でも俺に山岡の考えを否定する権利なんて無い。
だけど、俺は友達として山岡が誰かと付き合っていく姿を見ていることなんて出来ない。
友達には戻れない。
< 12 / 31 >

この作品をシェア

pagetop