始まらなかった恋
そのとき、
「佐藤!!!」
佐藤の肩を後ろに押し、そのまま私の前に身体を滑り込ませてきたのは中谷。
「山岡に何した!!!」
そう怒鳴ると、私の方へ振り向いて、
「大丈夫?」
と顔を近づける。
声も出せないくらい驚いてしまう。
「中谷…お前さ、ちゃんと自分の気持ち山岡に言ったほうがいいんじゃね?」
「は?」
目の前にあった中谷の顔が離れて行った。
ああ、緊張した。
「山岡は中谷のこと好きだって言ってたぞ」
「佐藤!」
今度は私が叫ぶ番。
「な に 言って…」
しどろもどろに小さく呟きながら中谷がまた振り返る。
目がバッチリ合ってしまう。
中谷の顔が赤い。
きっと私の顔の方がもっと赤いだろう。
「…山岡、俺委員会で…忘れ物したから取りに来ただけなんだ。 あの、もし予定無かったら戻るまで待っててくれないか?」
赤い顔でそんなことを言うから私は期待を込めて頷いた。
すると、中谷は私の大好きなくしゃっとした笑顔を向けてくれた。
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