*Only Princess*




あれは私たちが小学校5年生のこと。


いつも通り、2人で学校から帰っていた。


家が向かい同士のあたしたち。


朝生の家の前に見知らぬ車が止まっていた。


私たちは顔を見合わせ、首を傾げた。


すると、家から出てきた朝生のお母さん。



「あ、母さ……」



朝生は母さん、と呼ぼうとしたが、途中で止まってしまう。


だって、朝生のお母さんは見知らぬ男の人と腕を絡ませていたから。


そのまま2人は車に乗り込む。


朝生の存在なんて、まるで気づいていなかった。


ドクンドクン、と心臓が大きく波打つ。


小学生の私でもわかった。


あれは────不倫だ。


それは朝生もわかっていただろう。


だけど受け入れたくないのか、ただ受け入れられないのか。


走り去っていく車を追いかけることも、涙を流すこともなかった。


ただただ呆然と、遠くなっていく車を見つめていた。


仲が良かったはずの朝生の両親。


だから、今見た光景が信じられなかった。



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