あの頃の私
「どこかホテルとってるの?」
やっとの思いで、だけど平気なフリをしてきいた。
「いや、俺は明日仕事だから。最終の新幹線で帰るよ」
「そっか。一緒だね、私も」
また会話が途切れた。
あの頃私の手を離してしまった彼にどうにかして言ってやりたい。
今私は幸せだって。
いよいよ駅の改札が見えてきた。
どちらからともなく立ち止まる。
「あのさ、」
「あのね、」
私たちはほぼ同時に声を発していて、思わず顔を見合わせて笑った。
「言ってよ」
「そっちが先に言えよ」
なんでだろう。
いざ言おうと思うと、言えなかった。
私はうつむいた。