私、古書店の雇われ主人です。
羽鳥さんの言葉は勇気と自信を与えてくれた。仄暗い過去の呪縛から解き放ってくれた。

この店――ここが私の居場所、ここを守るのが私の仕事。もう揺らいだりしない。色川さんが言ったとおり、心をこめてやっていくだけ。

「ありがとうございます。なんか、羽鳥さんにはいつも励ましてもらってばかりですね」

「そうかなぁ」

「そうですよ。あと、ちょっと褒めすぎです。お店だってまだ正式に継いだわけじゃないですし……」

「でも継ぐでしょ?」

屈託のない笑顔に、私は涙でぐしゃぐしゃの顔で精一杯答えた。

「もちろんです。祖父に認めてもらえるように頑張ります」

自分の人生は自分で決める。人には自分の居場所を求めて旅する自由がある。だから、私はここで生きることを選ぶ。

旅をする本たちと、本を求めてやってくる人が出会うこの場所で生きていく。もう優しさを搾取されたりしない。優しさに誇りを持って、大切なものを守っていくと決めたから――。



ある土曜日。

航君と羽鳥さんがそろって店を訪れた。

「羽鳥さんのTシャツのそれって――ウッドストック、じゃないですよね?」

私の指摘に、羽鳥さんが得意そうな顔をする。

「ふふん、わかるかい?」

「わかりますよ。だって、黄色じゃなくて紫色じゃないですか」

「さすがカンナさん。こいつはレイモンドと言ってウッドストックの仲間のひとりなのさ」

「はぁ……」

「カンナさん、おれのはわかりますか? スヌーピーじゃないんですよ?」

「ああ、航君のは顔はスヌーピーっぽいけど毛がフサフサだね」

「さすがカンナさん! こいつはアンディ。スヌーピーの兄弟なんです」

「はぁ……」

(この人たちって、いったい……)
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