私、古書店の雇われ主人です。
だからといって黙ったままというわけにはいかないし。

「親御さんに頼ることなく頑張っている種村は本当に偉いよ。私は頼れる親がいなかったらどうなっていたかわからないもの」

思うところを素直に伝えたつもりだった。一人で頑張っている種村を尊敬するし、私自身のことは事実だから。でも、やっぱり今の彼女にはうまく伝わらなかった。

「何それ?“や~ん、可哀想~、私だったら絶対無理~”とか? そういう話?」

「そんなこと言ってないよ」

「私だって親を頼れるもんなら頼りたいよ。できるもんなら頼るよ。奨学金って借金さえなければもっと自由に生きる選択肢だってあるのに。不幸だよ。不公平だよ」

完全に神経を逆なでしてしまったらしい。種村は不満と憤りを露わにして、まくし立てるようにつづけた。

「あとあれ? 試練や不遇は神様からのギフトとか? あなたは乗り越えられるはずだと選ばれた強い人間なんだよとか? そういう話でもしたいわけ?」

「誰もそんなこと言ってないじゃない」

「言ってるよ!みんな言うじゃん!」

(えっ……)

瞬間、私は種村の孤独を痛いほど感じた。

「頑張れって。もっと頑張れるはずだって。おまえより大変なとこで頑張っている人間もいるんだからって」

(種村……)

彼女はそうして励まされ追いつめられてきたのだろう。苦しさや悔しさに寄り添う者もなく、弱音を吐くことも立ち止まることも許されず、彼女なりの精一杯の頑張りを認められることもないままに。

「借金なんて今返してるのは乗っかった利子の分だし。私はいつまでどんくらい頑張ればいいわけ?」

「種村は学生の頃からずっと頑張ってるじゃない。だから――」

「妹尾は何も知らないじゃん」

(えっ……)

「恵まれている人にはわからない。妹尾なんかにわかるわけないよ!」

確かに私は種村が背負っているような重荷を抱えてはいない。どうしたって彼女の気持ちに寄り添うことなどできやしないのかも。

(種村……)

私は返す言葉がなく押し黙った。

店の中は時計の秒針の音が気になるほど静まり返り、重苦しい空気が充満していた。

「“妹尾なんか”って何ですか」

沈黙を破ったのは航君だった。

「よくわからないけど、お二人はずっと会っていなかったんですよね? だったら、社会人になってからのカンナさんのこと、あなただってよく知らないじゃないですか。カンナさんだっていろいろ――」

「航君、いいから」

「でもっ……」
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