私、古書店の雇われ主人です。
「わかってあげられる航君もいい人だよ。若いのに見所のある奴じゃ。うむうむ」

冗談めかして言いながら、私は彼の好きなカフェオレを淹れた。

「お礼といってはなんだけどサービスね」

「おれ、何もしてないし」

「私の味方でいてくれた」

「おれは中立ですよ」

「じゃあ、正しく中立でいてくれてありがとう」

共感はしても闇雲に同調して他者をせめたりしない。航君のその感覚をとても好きだと思う。そして、その純粋さがちょっぴり眩しかった。

「おれ的にはちょっと言ってやってもよかった気もしますけどね。カンナさんだって、いろいろ大変な思いをしてきて“今”なんだし」

「いいよ。航君が言ってくれたので十分だもん」

「カンナさんはガツンと言ってくれたんでしょ?」

「へ?」

「羽鳥さんに聞きました。まえに、おれの担任がここへ殴り込みに来たときのこと」

「殴り込みってそんな」

わざと言ってるとわかっていてもおかしくて、思わずぷぷぷと笑ってしまう。

「任侠とかそういう話?」

「カンナさん、おれのことかばってくれたんでしょ」

「何も。私も中立ですから。事実を正確に述べただけだよ」

航君は礼儀正しく聡明な人物であること。私は友人として信頼していること。それを率直に言っただけだ。

「じゃあ、おれもその中立に感謝を」

私たちは顔を見合わせて笑った。

今日の航君は私がよく知っているいつも航君だった。なのに、結局この日もまた――意気地のない私は気になっていることがあるくせに、うやむやにして聞けずじまいにおわってしまったのだった。


週末、種村がさっそく店にやってきた。

「この間はごめんなさい!」

「ちょっ、いきなり……っ」

来るなり深々と頭を下げられて、思わずあわわと慌ててしまう。

「とりあえず、顔上げてよっっ」

「だって、ちゃんと謝らなきゃと思ったから」

「わかったけど。ほら、お客さんたちもびっくりしてるし」

「あっっ」

暇そうな当店でも、土日はそれなりにお客さんが来てくださるのだ。

「もし種村さえよければ一緒に夕飯でもどうかな? あ、でも、今日は遅い時間になっちゃうかも。うーん……」

「いいよ私は何時でも。明日は日曜だし。って、妹尾は明日もお店あるよね? うーん……」

「それは気にしないで。それより、いっぱい待たせちゃうけどごめん」

「こっちはぜんぜん。妹尾こそ明日も仕事あるのにごめん」

(この会話の感じって、なんか懐かしい)
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