シグナル
対応にあたったのは、
刑事課少年係に勤務する、
新米の女性刑事である青木であった。
加害者が少年のため、
若い女性の警官が対応した方が良いと判断された為である。
「君ね!次々と人を刃物で刺して暴れたというのは…
これから色々聞きたい事があるから教えてね!
まず名前は?」
「……」
この時の武彦は無言のまま俯いており、
恐怖に怯え、
体を小刻みに震わせていた。
もう一度青木が尋ねると、
暫く間があいたのち、
震える小さな声で応える。
「武彦…」
「武彦君ね、では名字は?」
「そんなのない」
「そんなはず無いでしょ、
名字はなに!」
「名前しかないよ」
「分かりました、
では歳は?」
「十二歳…」
「あなたまだ十二歳なの?」
「はい…」
武彦に会う前の青木は、
事件の大きさ等から、
少年と言ってもせいぜい高校生位だろうと、
勝手な思い込みがあった。
その為初めて武彦の姿を見た時も、
『随分と幼さの残る子だな?』
と思ったが、
それがまさかこれ程若いとは思っておらず、
驚きの表情をどう隠せば良いか考えてしまう程であった。