シグナル
「武彦君?僕のこと分かるよね」
その直後だった。
「僕、どうなるの?」
初めて発せられた武彦の声であったが、
その声は明らかに生気を失っていた。
「僕…殺されるの?
やだよ死にたくないよ!
お願い…命だけは助けて!」
この武彦の言葉に井上は、
一瞬言葉を失ってしまった。
「……」
「僕だよ!おじさんの事分からないの?
パパの友達の井上だよ!」
「井上って誰?
この世界にパパなんかいないよ、
僕はテリー達とずっと一緒に戦ってきたんだ!」
武彦が犯行に至った動機になりうる言葉を聞いた井上は、
もっと詳しく聞き出せないかと椅子から立ち上がり、
更に身を乗り出す様にして尋ねる。
「この世界って何?
君の言う世界って何処の事を言ってるの?
そもそも誰だいテリーって…
教えてくれないか、
どうしたの一体…武彦君!」
その時、
「時間です!」
係官の声と共に、
全身の力が一気に抜けた様に、
椅子に腰をおろす井上、
その後係官に付き添われ、
面会室を出ていく武彦。
井上は面会室を出ていく武彦を見届けた後、
鑑別所を後にした。